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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)469号 判決

控訴人

鈴木みつ

外四名

右五名訴訟代理人

大久保弘武

鈴木光友

被控訴人

静岡スバル自動車株式会社

右代表者

鈴木辰衛

右訴訟代理人

田中登

右復代理人

二宮充子

大内猛彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人鈴木みつに対し金二五〇万円、同仲山政二同仲山きく同河合政市同河合ときに対し各一二五万円およびこれらに対する昭和四二年一一月二三日から完済に至るまで、年五分の各金員の支払をせよ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、控訴代理人において、控訴人ら主張の示談契約の無効原因は、第一に、右示談契約は実際の運転責任者が何人であるか不明であることを前提としてなされたものであるところ、その後鈴木喜代一が運転責任者であることが判明したが、もしもこの事実が示談契約締結当時明らかになつておれば、控訴人らは右示談契約を締結しなかつたものであり、右示談契約は前提とした事実に錯誤があり、かつそれは契約の要素をなすものであるから、右示談契約は無効であると主張し、原判決六枚目(1)の主張を撤回し、被控訴代理人において控訴代理人の右主張を争うと述べ、当審における新たな証拠として、控訴代理人は当審証人鈴木正美の証言を援用したほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、それを引用する。

理由

当裁判所が証拠によつて確定した事実は、原判決の理由欄に記載のとおりであるから(ただし、原判決一一枚目裏四行目の末尾に「(証人鈴木はつえの証言)」を加える。)、これを引用する。

さて、自動車損害賠償保障法三条に基づき損害賠償を請求するためには、その賠償責任者は、被害者との関係において、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有し、自己のために自動車を運行の用に供していると認められる者であることを要するところ、右確定の事実によれば、鈴木喜代一は、その勤務先である被控訴会社の自動車を、私用に使用することを厳重に禁止されていたにもかかわらず勝手に持ちだし、これを使用して夜桜見物に出かけたものであり、これに同乗した鈴木良二、仲山清雄、河合和弘は、被控訴会社が右のように会社の自動車を私用に使用することを禁止していることを承知のうえで、しかも、鈴代喜代一の母が鈴木喜代一に対し会社の自動車を私用に使うことを禁止されていることをいましめ、右夜桜見物に出かけることをやめるよう注意し、同人はいったんその気になつた場に立ち会い、むしろ夜桜見物の決行を強く主張したため、結局鈴木喜代一も加わつて四人で出かけたものである。そうすれば、本件においては、被控訴会社所有の自動車を、被控訴会社の命令、意思に反し、専ら鈴木喜代一が同人および前記三名の行楽のため運転したものであるから、被控訴会社のためにする運行でないことは明らかである。そして、前記三名の者は、本件走行がかかる性質のものであることを知悉しながら、その走行の発案、計画、実行に積極的に加担し、これを推進したものである。以上のような事情のもとにおいては、被控訴会社は、本件走行中の事故によつて右三名およびその相続人らに関し生じた損害につき、これらの者に対し自動車の運行供用者として、自動車損害賠償保障法三条に基づく賠償責任を負わないものといわなければならない。

したがつて、控訴人らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却すべきである。これと同趣旨の原判決は相当であり、控訴人らの控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。

よつて、民訴法三八四条一項、九五条、八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(中村治朗 鰍沢健三 鈴木重信)

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